Remina Nishida Official Homepage

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2017年6月21日水曜日

テクノロジーの進化によるリハーサルの簡略化

最近指導の方が忙しく、ブログご無沙汰してますが、昨日、なかなか凄い体験をしたので、特にニューヨークでミュージカルシンガーを目指す人に読んでもらいたいと思い、久々にブログを書かねば、と思いました。

日本とアメリカでプロとしてミュージカル俳優として活動する上での違いは?
とよく聞かれて、ユニオンのことや、オーディションの違いなどは今までよく話してきたのですが、昨日、「これは決定的に違うよな」と思うことがあったのです。

日本のミュージカルの稽古場にはよく「歌唱指導」という担当がいるのです。
音楽監督助手と兼任する場合もありますが。

これはアメリカにはない。というか、プロである以上、歌唱指導者が現場で必要だったら困るのです。

なぜなら、アメリカの稽古期間というのは驚くほど短い。
劇団四季でもたまに2週間で出演、とか凄い経験してる人いますが、それは結構な緊急事態。ブロードウェイの緊急事態は配役から2日で出演、とかですかね。

緊急事態でなくても、基本的に稽古期間は短く、ユニオンの規定で稽古時間がコントロールされており、休憩も何時間に1回、と細かく決まって居ます。
だから、時間は無駄に出来ない。基本的に、現場に行ったら、もうほぼ出来てる、のが当たり前。

日本人のダンサーがすでに多く活躍しているブロードウェイの現場ですが、シンガーが少ないのはこれが原因のひとつかもしれません。
なぜなら、シンガーの私は現場に行った段階で楽譜に書かれていることは全てできていて、かつ、やってきたものをみたディレクターが調整をかける、すなわち「変更していく、変更を求められる」からです。

例えば、あなたがダンサーとしてブロードウェイの舞台に採用されたとしましょう。振り付けは現場でしか行われません。「自分で振り付けてきてね、当日それ見て変更加えてアレンジしてくから」ということはあり得ません。稽古初日に振り付けが始まってそれを体で再現していくのです。ダンスは言葉を発することがないので、ネイティブでもノンネイティブでも、ある程度要求さえ聞き取れればハードルの高さはほぼ同じです。

シンガーは違います。まず事前に渡された楽譜に書かれていることはほぼ全て予習して、それを稽古初日に見てもらいます。私の場合、歌詞をまず一文字一文字追って行くことから始まります、その時点でネイティブと差が出ないように時間をかけて追っていきます。
歌詞が大体飲み込めたら、音符の譜読みは二期会オペラ研修所にいた時代に散々苦労した私は、ミュージカルの譜読みならオペラより簡単なので、割と早いのでざーっと音を頭に入れていきます。
それを稽古初日にやってみせると、現場で次々に変更が入ります。
「ここは歌詞をこっちに変えて、あなたはここアルトに回って。Hi-Eが出る人はここでソプラノ手伝って」という具合。そのスピードたるや、付いて行くのが大変。たまに変更後の歌詞のスペルが分からず、カタカナで書く始末(泣)。覚えた歌詞をすぐにすり替えるのが大変なのはどうやら私だけらしい。
挙句に、一度変更になった歌詞が本番当日に元どおりになったり、シンガーの場合はアンサンブルではなくメインキャストの場合もあるので、セリフの変更、そして一番しんどいのは「ここはアドリブで」という注文。

この「ここはアドリブで」が本当にキツイ。自分が勝手にアドリブしていくならまだしも、相手のアドリブを受けてアドリブで返す。特に喧嘩のシーンなどは相手も早口で聞き取るのがまず大変。
これがダンサーだったら、はーい、アドリブね、フリースタイルね、と何語が母国語だろうと関係なく余裕のよっちゃんなのです。

因みに、稽古初日に楽譜が読めていなくて、その日のうちにクビになった人を見たことがあります。

ユニオンは規定があるから、稽古時間に逆に守られている、と感じる場合もあります。

といいますのも、、、ここ最近、テクノロジーの発達により、ユニオン規定のないノンユニオンの舞台はリハーサル期間はどんどん短くなっていき、自宅で楽譜とレコーディングされたバンドのトラックだけでリハーサルなしで本番に臨んだりもします。
実際、私もノンユニオンのオフブロードウェイ作品で、本番当日、開幕前2時間のリハーサルで本番に臨んだこともありますし、その時は振り付けも動画で送られて来ました。
本番当日にやったこともないトラック(枠)で突然出ろと言われ、本番当日に台本を高速で暗記し、空気を読みながら演じたこともあります。アメリカはこの辺、とってもいい加減なのです。

で、昨日どんな体験があったかと言いますと。

普段、そういう短い稽古期間に慣れている人たちが集まって、リハーサル1回でフルコンサートを行ったのです。

今年、私が大学時代に初めてミュージカルの発声を勉強した時に教わった、メアリー・サンダース先生が退職されることになり、ペンステート(ペンシルバニア州立大学)のミュージカル科の卒業生が集まって、彼女に内緒でサプライズコンサートを開きます、という連絡が来ました。私も当然一緒に歌うことにしました。
このサプライズコンサートを企画したのが、卒業後最も世界的に有名になった、ナタリーワイス。ナタリーはアメリカンアイドルのセミファイナリストになって以降、あちこちで歌うようになり、ブロードウェイデビュー後はYouTuberとしても活躍、今やプロのミュージカルシンガーで彼女を知らない人は居ない程の人気。
私もよく、「えっ!ペンステート卒業したの?ナタリーワイスと同じじゃん!」と言われます。

そのナタリーが「会場もバンドもブックしたから、うちで1回だけリハーサルするよ、何月何日の何時にうちに来てね」と総勢約50名にメールをくれたのです。

でもね、この50名がほぼ全員、プロなわけです。
そのうち多くはブロードウェイか全国ツアーには出ているツワモノたち。

しかしながら、そんな大活躍な卒業生みんながその日に来れるとは限りません。
当然、来れないメンバーが半数。
私は普段は暇なのに、その日に限ってピアノの生徒さんたちのレッスンがあり、その子達にとっては発表会前最後の練習だったので、休むわけには行きませんでした。
事情を話して、「ごめんねナタリー、すごく参加したいけど、どうしてもリハーサルに出られないの。でも、当日お祝いに駆けつけるから」と言ったら、
「えー、Remina、リハーサル録音しとくから大丈夫だよー!当日歌ってね。」と返事が来ました。

まず、このナタリーが録音したリハーサル音源が凄かった。
さすがYouTuberだけあって、もの凄い編集能力!
なんと、バンド音源とパート別の伴奏が録音されて居て、その上からわざわざ、ナタリーの声が吹き込まれて居て、「Remina,ここは半拍前から入って、一番上のパート、ジュリアやローリーと一緒に歌って。」「Remina ここは楽譜では3拍目でオフだけど、4拍目までは伸ばして。」「ここから22小節目までは真ん中を歌って。」とスーパー早口で説明が入っているのです。

このナンバーを歌うのは11人、私以外にもリハーサルにいなかった人の名前がナタリーの声でどんどん呼ばれて、指示されています。
これ、以前歌ったことがあるナンバーなのですが、歌うパートは変更、曲自体もカットされて新しいバージョンになっています。逆に覚えちゃってるパートで歌いそうになってしまい、やりにくい!!!
私はこの録音を受け取って、譜読みした楽譜にしるしをつけて、11人で歌う完成形を想像して自宅で作っていきます。

私は2曲参加だったのですが、そのうちもう1曲は初めて聞いた曲で、かなりの難曲、コーラスがとてもとても複雑で、「Reminaここは自分の歌いたいパート自分で選んで歌って」という指示が結構多く、選択権が与えられた箇所については、一番シンプルなメロディーを選ばせていただいて、ことなきを得ました。

さて、本番当日。

当然ながら、ブロードウェイに出演中のメンバーが参加出来るようにトニー賞のリハーサルも終わって、少し落ち着いた休演日の月曜にコンサートを設定していたので、出演中のメンバーもたっくさん歌いに来ていました。
限られた時間は各ナンバー2分。リハーサル進行中にもライブに関してはプロ中のプロ、ナタリーがサウンドチェックを行っています。的確に劇場スタッフにも指示を飛ばしています。(かっこい〜!!プロだ〜!!)

私のクラスは全員で13人なのですが、なんと11人が参加するというかなりの高確率で集まることが出来ました。

本番当日の通し稽古1回が最初で最後の全員で合わせるチャンスです。
せーの、で合わせたら、

バシっっっっっっっ!!!!!!!!

完璧。

「まあ、綺麗にまとまったね」という感じではなく、

「バシっっっっ!!!」

という感じ。

もう、びっくり。

我々だけでなく、どのクラスも全部。

50人、全部。別日程のリハーサル1回に参加できたのが半分。
当日初めて全員集まって、こんなにうまく行くって凄いわ。
バンドのメンバーも「ひょー!」って顔。

テクノロジーの進化は今後リハーサルの時間を極限まで減らすだろうな、と実感した夜でした。

怖いわ。

ああ、怖い。

これからずっとこうなって行くのだろうか。