まずブロードウェイのキャストには大きく分けて6つのポジションがあります。
1. Principal メインキャスト
役名があり、最初から最後まで同じ1つの役、少人数のお芝居(シルビアやアベニューQなど)だと多いときは2,3役を演じる。英語ではプリンシパルと言います。
役名があり、最初から最後まで同じ1つの役、少人数のお芝居(シルビアやアベニューQなど)だと多いときは2,3役を演じる。英語ではプリンシパルと言います。
2. Ensembles アンサンブル
コーラスとも言い、着替えたりメイクを変えたりしながら多種多様な役を1人でこなす人達です。時には脇役を演じたり役名があったり、セリフや短いソロがある場合もあります。
コーラスとも言い、着替えたりメイクを変えたりしながら多種多様な役を1人でこなす人達です。時には脇役を演じたり役名があったり、セリフや短いソロがある場合もあります。
以上の2つは皆様ご存知ですね。
3. Understudy アンダースタディ
代役のパターン1です。
アンサンブルに配役された人たちもメインキャストを演じるだけの実力がありますので、リハーサルに入るとアンサンブルとして稽古しながら、決められたメインキャストの役を覚えます。つまり、アンダースタディとは、通常はアンサンブルで出演し、メインキャストが体調不良や怪我、バケーション、冠婚葬祭などで抜けた時に代役に入る人達です。何日も前から言われる時もあれば、本番中に事故が起きて突然穴を埋める事もあります。
4. Standby, Alternate スタンバイ、オルタネート
代役のパターン2です。
Standby スタンバイ... 基本的に歌やセリフ、ダンスが極端に多かったり、肉体的要求の高い役、または、テレビ出演や撮影が多い有名なスターや、高齢者のメインキャスト、子役などの代役としてのみ雇われている俳優で、出演しない日も緊急事態に備えて劇場内でウォームアップをして待機、出演せずとも給料は発生します。
Alternate オルタネート...スタンバイと似ていますが、オルタネートキャストの方達は、メインのキャストが舞台に出る回数を敢えて減らす為に設定されています。従って、アンダースタディやスタンバイと違い、開幕から既に出演する日が決まっています。特にレ・ミゼラブルのジャン・バルジャン(喉酷使系)、パリのアメリカ人のリーズ(つま先酷使系)、夜中に犬に起こった奇妙な事件のクリストファー(脳みそ酷使系)など、特に喉や身体を酷使する役は初めから週8回公演を1人の役者でやらせない様にスケジュールを立て、オルタネートキャストが出演する日をあらかじめ発表します。日本ではダブルキャスト・トリプルキャストが主流ですが、アメリカでは週8回公演のうち、メインのシングルキャストが週6回出演し、残りの2回をオルタネートが出演する、という風に、看板役者を1人立てて、もう1人はオルタネート(控え)という配置が主流です。ですので、ポスターなどの広告、イベント出演はメインの俳優が1人でこなします。スタンバイと同様、出番の無い日も劇場にて緊急事態の為に待機しているケースもあります。
5. Swing スイング
代役のパターン3です。
さあ、やっと出てきました、スイングです。スイングはカンパニーで最も賢く、万能な人が配置されます。いわば緊急事態に助けに来てくれるスーパーマン(スーパーウーマン)。覚える事が最も多い上、緊急時に冷静さを保てる人が選ばれます。多くの場合、各作品に最低男性1人、女性1人のスイングがいて、男性スイングは男性アンサンブルの全てのパート(英語ではトラック、日本語では枠と言います。)女性スイングは女性アンサンブルの全てのパートを覚えています。1人で8-10人分のアンサンブルパートを覚えている人もいますし、ライオンキングなどのロングラン作品になりますと、スイング兼メインキャストのアンダースタディで主役を含む13人分くらいのパートを覚えている人も居ます。
スイングはアンサンブルが怪我をして出られない時、アンサンブルがメインキャストの代役として抜けた時などに、抜けたアンサンブルの穴を埋める人です。ですから、いつ、どのパートの人が倒れても、すぐにその役をカバー出来る様にノートと台本を持ち歩いています。最近では電子タブレットに整理してまとめている人もいますね。当然、いつ何が起ころうと、ショーが続けられる様に常に劇場でウォームアップしていつでも出れる様に準備しており、出演せずに終わっても給料が出ます。
例えばあなたがブロードウェイでライオンキングのオーディションに合格し、キャスティングディレクターから「あなたはアンサンブル1枠、兼シンバ役のアンダースタディです。」と言われました。リハーサルでは自分の与えられたパートを稽古しながら、シンバの稽古にもすべて同席してシンバの動きも一緒に覚えます。つまり、アンサンブル1枠とシンバの合計2つを覚えるのです。これだけでも大変です。
開幕から数週間経ったある日、アンテロープ、草、ハイエナと次々と自分のパートをこなしていたその時!本番中のシンバが舞台に「しんぱいないさーーーーっ」とロープから着地した瞬間、グキッ!!っと足首を故障してしまいました。さて、ステージマネージャーはまず、シンバの代役が出来る一番経験のある人を探します。当然、スタンバイがいれば、スタンバイが出ますが、シンバは1幕の出番が少ない事から、スタンバイが居る事はあまりありません。次にシンバの稽古経験があるのがあなたです。即座にステージマネージャーは、あなたの穴(アンサンブル1枠 )を埋める人、すなわちスイングに、あなたのパートで出る準備をさせます。
男性スイングは頭の中で光速でアンサンブル1枠の動きをシュミレーションしながら、2幕から出る準備をします。次の出番は休憩挟んで第2幕なので、あと20分ほどあります。ライオンキングのアンサンブルはメイクのファンデーションが必要ないのでわりとすぐに準備ができます。その間にあなたはマイクを交換、シンバのメイク、衣装をつけ、頭の中でシンバの台詞や歌詞、動きをシュミレーションし、2幕開始丁度と同時にスイングはあなたの役で、あなたはシンバで舞台に出ます。
因みにスイングは全役の振り付けを覚えているので、ダンスキャプテンに任命される事が多いです。
また、子役が沢山出る作品には子供のスイングが居て、「ファンホーム」の様に、男の子も女の子の役も、女の子が1人で全部カバーするケースもあります。
考えただけで「ご苦労様です...」と言いたくなりますね。
6.その他(スタント、アニマルアクター)
スタント...ショーの中で危険なことを俳優の代わりにやる人のこと。アンサンブルがこなす場合もありますが、特に危険な空中アクション(エアリアルやフライング)を主役の代わりにやる人がいます。身代わりになる俳優に似た背格好のスタントマンが雇われ、歌やセリフはありません。スパイダーマンでは1度の公演で9人ものスタントがスパイダーマン役で出演していました。
因みに、スタントさんはアクロバットや殺陣が出来る人が多いので、ファイトキャプテン(危険なシーンをコーチする人)に選ばれる事が多いです。
アニマルアクター...その名の通り、(多くの場合、役名もちゃんとある)れっきとしたキャストメンバーの動物です。ミュージカルでは犬が1番多いですね。代表的なのはアニー、キューティブロンド(リーガリーブロンド)、ファインディングネバーランド等。「夜中に犬に起こった奇妙な事件」ではネズミも本物が出演、役名もちゃんとあり、主演俳優にちゃんと懐いていましたね。
スイングの説明をするはずが、全て説明してしまいましたが、お分かり頂けたでしょうか?
劇団四季は全ての役に複数の俳優がキャストされていますから、スイングは必要ありませんが、四季の俳優さんはキャリアがあればある程、多くの作品の役をやっていて、一度キャスティングされると、いつ何の役で呼ばれるか分かりませんから、言ってみれば、常に出演した過去の作品のスイングになるみたいな感じはありますね。これをアメリカ人に話すと、「クレイジーだ!」と言われます。
日本でも、単発の演目の公演ですと、時々スイングキャストをプログラムで拝見します。
みなさま、本当にご苦労様です(笑)。